(勇者ラムネス・・・)

「へ?」

 突然、名前を呼ばれうろたえるラムネ。
 しかも、かつて異世界で大冒険したときの懐かしい称号で呼ばれたのだ。あわてて、あたりを見回すラムネとミルク。
 声の主は意外なところから二人に呼びかけていた。

(聞いて下さい、勇者ラムネス、プリンセス・ミルク・・・)
 二人の前にある大きな鏡の中にその声の主の姿はあった。

「?」

 ラムネとミルクが見つめる大鏡の中に一人の少女の姿が映し出されていた。
 美しい青髪。トパーズ色の澄んだ大きな目。
 ミルクやレスカ達のように元気で陽気な少女達とは違ったはかなげで寂しい雰囲気を放つ美少女が、鏡の向こう側から二人に呼びかけていたのだった。

「き、君は?」
「だ、誰よあんたっ!」

 鏡に映った少女に問いかけるラムネとミルク。
 とくにミルクの声は、最愛の相手と二人っきりでいる時間を邪魔されたためか、女の直感で何かを感じたのかトゲトゲとした甲高いものだった。

「ドキドキスペースは今、再び邪悪な存在に支配されようとしています・・・」
 二人の疑問には答えようとせず、その少女は不吉なメッセージをラムネ達に告げた。
「助けにいってあげて下さい。
アララ王国を・・・。
そして、カフェオレ女王とプリンセス・ココアを・・・。」
 少女の姿がぼやけるように薄れ、かわりに別の画像が鏡の中に映し出された。

「な、何?」
「そ、そんな・・・」
 それは、荒廃し荒れ果てたアララ城の様子だった。
 まるでおとぎ話の中に出てくるお城の様にのどかで美しいアララ城の城壁は崩れ、建物も燃え落ちどす黒い煙をくすぶらせている。
 かつて、アララ城の横にあり満々とした豊かな水をたたえていた湖もすでに枯れ果てて赤茶けた醜いクレーターと化していた。

「こ、こんな事って・・・」
 ほんの数日前までは無事であったはずの故郷の変わりように、ミルクが信じられないと言った面もちで身を震わせる。
「ウソッ、ウソよ、こんなの!
だって、ついこないだ今度の結婚式に来てねって、お姉様達と連絡したばっかりなのよっ!」
 つい先日、故郷と超時空通信機で連絡した時の平和そのものといった向こうの様子を思い出しながらミルクが声をあらげた。

「彼らは、突然やってきました。
抵抗する時間さえありませんでした。
勇者のいないアララ城は、脆いものでした・・・」
 謎の少女のが、ミルクの疑問に答えた。
 その声には、感情のこもらない事実のみを伝えようとする冷徹な響きが伴っている。

「敵の正体は?」
 隣で表情を硬くしたラムネスにも、すぐには信じられない様子だった。
 しかし、彼の闘志にはすでに火がつき始めている。

「大邪神アブラーム・・・・。
異世界からやってきた強大で邪悪な魔神です・・・」

「大邪神アブラーム・・・」
 その名のなかに、かつて死力を尽くした戦いのはてに、ようやく倒した強大な魔神の姿を思い浮かべ戦慄に身を震わせるラムネスとミルク。

「かの魔神の力はあまりにも強大で、瞬く間にドキドキ・スペースは制圧され最後まで抵抗を続けようとしたカフェオレ女王とココア姫も・・・」

「!、そうよッ!お姉様達はッ?
二人とも無事なのっ?」
 姉の名前をだされてミルクが大きな声をあげる。
 彼女とその姉妹達は、邪悪な存在を退ける力を秘めた「聖なる三姉妹」なのだ。それゆえに邪悪な存在達に、真っ先に狙われる運命なのだった。
 しかしミルクにとってみれば、そんな事は関係なかった。ただ、自分の敬愛する二人の姉の安否が重要なのだ。

「カフェオレ女王とココア姫は、大邪神の手に落ちてしまいました・・・」

 再び鏡の中の画像がぼやけ、アララ城の廃墟が薄れていく。それと、入れ替わるように、別の画像が姿を現してくる。

「ッ!」
 鏡に映し出された画像にラムネスは息を飲んだ。
「カフェオレお姉様ッ!ココアお姉様ッ!」
 と、同時にミルクの唇から二人の姉の名前がほとばしった。
 そこに映し出されたのは聖なる三姉妹の長女にしてアララ王国の若き女王、カフェオレことレスカと、聖なる三姉妹の次女でありミルクがもっとも敬愛している姉である、ココアの姿だった。

 鏡の中に映し出された二人の姿は、二つ並べられた椅子のような物にそれぞれ拘束されていた。
 二人とも両手を椅子の背もたれの頭の横のあたりに枷で固定され、上品なドレスの胸元もはだけさせられてレスカの形の良い乳房もココアの豊かな胸のふくらみもむき出しになっている。
 下半身は両脚を椅子のようなものの基部から左右にのびた金属製のアームに両方の脚をそれぞれ固定され、股間を大きくおっぴろげにさせられていた。
 本来は丈の長いドレスのスカートも、完全にめくり返って二人の下半身を露出させてしまっているため、レスカの高級そうなレース編みの黒い妖艶なパンティも、ココアの清楚なデザインの純白のショーツも白日の元にさらされてしまっている。
 被拘束者の手足の自由を奪ったうえで、左右の脚を限界一杯まで割りひろげる。
 それは椅子というより、産婦人科で使われる内診台にそっくりで、その上に大股をおっぴろげた大開脚の格好で拘束されたレスカとココアの姿はまるで解剖台に縛り付けられたカエルの様に無様だった。
 アララ王国の王冠を戴き、女王としての威厳すらあらわれ始めていたレスカのきつめの美貌は、何かの苦痛に耐えているかのように歪み、形の良い眉根はへの字に寄せられている。
 いつものグルグル眼鏡が外され素顔をあらわになったココアも、苦痛に耐えきれぬのか天使の様に可憐な美貌を涙でクシャクシャに歪め泣きじゃくっている。
 苦痛に耐え切れぬの二人が、子供がイヤイヤをする時のように頭を左右に振るたびに、きつく閉じられた瞼からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
 レスカの紅いルージュを引いた唇と、ココアの形の良いサクランボの様な唇には、ちいさな穴がいくつも開いたプラスチック製のボールがねじ込まれ、苦痛のための悲鳴や、泣き声を発する自由さえ二人からは奪い去られている。ギュッと噛みしめられたプラスチックのボールに開いた小さな穴からは、透明な糸を引いて涎が止めどもなくしたたり落ち続けていた。
 鏡に映し出されているのは映像だけで、くわえさせられたプラスチックボールの口枷の下から二人が漏らしているであろううめき声や、苦しげな息づかいといった音声情報が欠落しているだけにラムネスとミルクには、二人の悲惨な姿のビジュアルが、よりいっそう強調されて見えてしまう。
(レスカ、ココア・・・)
(お姉様ッ・・・) 
 鏡に映し出された囚われの身のレスカとココアの悲惨な姿を声を出すこともできずに、表情を凍り付かせたまま見つめるラムネスとミルク。
 
(あ、あれは?)
 恋人の姉二人の下半身に、思わず視線を吸い付けられてしまったラムネスは、そこに異様なものを見いだした。
 二人が拘束されている椅子のようなものの、お尻を支えている部分、普通の椅子でいえば腰掛けのクッションが中心から二分割され、その間からちょうど電話の受話器くらいの大きさの鈍い銀色に光る何かの装置らしきものがニョッキリと生えだしている。
 そして、その怪しげな装置らしきものは、レスカとココアの無防備にさらけだされた股間の中心部を覆うかのようにパンティの上から押しつけられているのだ。
(ッ!)
 両脚をおっぴろげさせられたあられもない姿で、怪しげな椅子に拘束された、レスカとココアの股間に押し当てられた装置の正体を見極めようと注視したラムネスは、その時になってようやくその装置が激しく震動していることに気が付いた。
 怪しげな拘束椅子に固定されたレスカとココアに加えられているのは、苦痛による責めなどでは無く、女性のもっとも敏感な弱点にくわえられるマッサージマシーンによる震動責めだったのだ。
「ひ、ひどい・・・」
 二人の姉の股間に押し当てられた装置の正体に気づいたミルクも、震える声で小さくつぶやく。
 デリケートな女の秘所に、薄いパンティの布地一枚越しとはいえ激しく震動するマッサージマシーンなど押しつけられればどんなことになるか。
 想像しただけでもおぞましさに身が震えてくる。
 だが、レスカもココアも拘束椅子に手足を固定され逃れる術などないのだ。

「お、お姉様達を助けにいかなくちゃッ!」 
 ミルクにとってかけがえもなく大切な二人の姉がそんな目にあわされている。
 彼女の中に、姉達をこんな残酷な責めにあわせている未だ見知らぬ敵に激しい怒りがこみ上げてくる。
「ああっ!」
 その隣で、最愛の勇者も力強くうなずく。
「必ず、レスカとココアを助けてみせるッ!」
 ラムネスとっても、レスカとココアは愛する恋人の大切な姉、肉親だった。いや、それ以上に、かつて苦しい戦いを一緒に力を合わせて戦い抜いた大切な親友、戦友なのだ。
 そんな、大切な二人をこんな酷いめにあわせている敵に対する怒りで全身が熱く燃えてくる。
 ラムネの胸の中で眠っていた熱血メーターが目を覚ました。見えないメーターの針が一気にレッドゾーンに跳ね上がり、振り切った!

「オレは今、猛烈に熱血している〜ッ!」

「そうですか・・・、救いに行っていただけるのですね?」
 なおも悶え続けるレスカとココアの姿が鏡の中から薄れていき、再び青髪の美少女の姿に戻る。
「ああ、当たり前さっ」
「それで、お姉様達は、どこに捕まっているの?」
「カフェオレ女王とココア姫が囚えられているのは、彼らの秘密基地です・・・」
「それは、どこにあるの?」
「そこまでは、私がお送りいたします・・・」

「では、よろしいですか?
勇者ラムネス、ミルク姫」

青髪の美少女の声とともに鏡が明るく輝きだし、あふれ出した眩い光がラムネスとミルクを包む。
 やがて、二人の姿は光に溶け込むように消えていった。

「勇者ラムネス、ミルク姫・・・。
彼らにとってはあなた方がもっとも恐ろしい存在・・・。
彼らはきっとあなた方も狙ってきます・・・。
決して正体を明かされぬよう・・・」

 薄れていく意識の中で、ラムネスとミルクは、謎の少女の最後の忠告を聞いた。

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