<とある日の三姉妹の笑難>
前編

 ここはアララ王国第二王女ココア姫専用の工房。

 ここでは今日も金属音が鳴り響いていた。ココアは毎日、ここに籠もってメカ製作を行うのが日課となっている。

 周囲に並ぶコンピューターやら機器類に囲まれて一つの物体が完成しつつあった。

 直径3メートル程の球体を横で真っ二つにした物体に、何本ものコードが伸びており、その先端には子供サイズの「手」が備わっていた。

 この見るからに怪しげな物体を、ココアは真剣な眼差しで黙々と組み立てている。

「ふぅ、もうすぐ完成ですわ〜」

 マイペースな口調で呟くと、ココアは汗を拭う。眼鏡を外し作業衣を心持ちはだけさせての行為はファンであれば殺し合ってでも鑑賞権を入手したいと考えるほどの貴重さを持っていた。

 まぁ、それは別問題として、ココアは今、姉であるレスカ(本名:カフェオレ)の依頼で『マッサ−ジマシン』なる物を開発していた。

 何故、マッサージマシンか?第一王女であるレスカであれば、この様な機械を作らずとも、本物のマッサージ師を何人も雇えるはずである。

 が、

「人を雇うとお金がかかる!」

 と言う、彼女の主張により、開発こそ資金が必要なものの、それ以後は一切ただのマシンを開発するよう、ココアに頼み込んだのであった。

 もとよりメカをこよなく愛するココアが「No」と言うはずもなく、今こうして全力をもって、開発にとりかかり、今やそれは完成間近となっていた。

 それから・・・・

「できましたわ〜『ストロングマシーン1号 正太郎君の下僕号』ですわ〜」

 口調こそのんびりとしたものであったが、実際には驚くべきスピードで物を完成させてしまったココアは、誰一人いない工房で、一人満足げに頷いていた。

「それじゃあ、早速、お姉さまに報告しましょう〜ね〜」

 そう言って、どこからかダイアル式の黒電話を取り出すと、ジーコロジーコロと、ナンバーをダイヤルする。

「・・・・・・・・・・・・・あ、カフェオレお姉さまですか?頼まれてた物、できましたわ〜・・・・・はい・・・・はい〜・・・・それじゃあ〜待ってます」

 受話器を置き、ふと一息つくココア。そして、ふと『ストロングマシーン』を見て、ふと呟いた。

「テストがてらに私もやってみようかしら」

 かつての大作である『スタン帆船』や『ハルク砲艦』に比べれば、明らかに小さな物であったが、一人で、しかも短期間で作った為、それなりの疲労がココアにはあった。

 そのため、目の前にあるマッサージマシンと自分は、テストにはうってつけの状況であったと判断したのである。

「そうですわね、試してみましょう」

 そう言うと、ココアは「ポチッっとな」とばかりに、マシン表面にたった一つあるボタンを押した。

 小さな駆動音と共に、垂れ下がっていた「手」がピクピクと動き出しコードがうねうねとのたうつ。マシンはセンサーによって対象をサーチし、この場合、唯一の人物であるココアに向けて「手」を伸ばしていった。

 数本の「手」がココアを引き寄せ、楽な姿勢にさせ、他の「手」が、手慣れた手つきでマッサージを開始する。相手の反応を関知して力加減を調整し、疲労箇所を重点的にマッサージする・・・・・はずだった。

「なんだか少し、くすぐったいですわね〜。プログラム間違えたかしら〜」

 我が身に与えられる刺激に違和感を感じ、ココアは身を捩ってプログラムしたデーターシートを取り寄せ、そこに目を通した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、ここが間違ってましたわ〜。確か、3×3は9なのに、6になっていましたわ〜」

 疲れていて集中力が欠落していたのか、単純なミスを犯していたココアであった。

「・・・・と、言うことは〜、ここで間違っていたデーターは微妙にプログラムを狂わして〜・・・・・・」

 黙々とその結果を手持ちの電卓で、しかも常人にはついていけないスピードで計算するココア。

「・・・・・・・あら、なんて事でしょう〜。これじゃあ、『心地よいマッサージプログラム』ではなくて、『悶絶くすぐりプログラム−女性限定−』になってしまいますわ〜。早く、プログラムし直さないと・・・」

 何故そうなるのか疑問はさておき、状況的にかなりまずい事態に気づくココアであったが、マシンは既に起動しており、彼女のそんな反応がきっかけになったのか、マシンはいきなりプログラムされた機能をフルに発揮し始めた。

「え?あ、ちょ、ちょっと・・・・・いやっはははははははははははは!」

 いきなり無数の「手」によって自由を奪われ全身をくすぐり回されたココアは、ゴブーリキ戦の時でも滅多に見せなかった早口で大笑いし始めた。

 「手」はプログラムに従い、ココアの全身をくすぐりながら弱点を探し出し、そこを重点的に責め始める。中には作業衣の隙間から入り込み、直に体をくすぐる「手」もあった。

「ああっ!ああっ!!ああっはははははははははは!そ、そこは、そこは駄目です、やははははは!!くすぐったいですぅ!あははははは、お、おやめに、やはははは、お止めになって下さいぃ〜!」

 必死になって逃げようともがくココアであったが、機械の「手」にかなうはずもなく、逆に責め苦は一層激しさを増した。

「きゃ〜っははははははは!だめっ、だめえっ!ひゃははははははっははははははは!し、死んじゃう、死んじゃう!あはっあはっ誰か、あ〜っははははははははははははは!!誰か助けてぇ〜!」

 ココアの悲鳴が響き渡ったその時、

「「どうした、ココア!」」

 乙女の悲鳴ある所、ラムネス&ダ・サイダーの姿あり。

 なぜ?と問われても即答できないが、ともかく、この世界はそれで通っていたのである。聖なる三姉妹の中で最も汚れ無き存在(ラムネス&ダ・サイダー談)の悲鳴であれば現れないはずもない。

「ラ、ラムネっへへへへへへへ、ダ・サイダはははははははははは、た、たすひゃはははははは、助けてくだはははははは、くださいましぃ〜ひ〜っへひひひひひひひひひ!」

 駆けつけた二人は怪しげな機械に蹂躙されるココアを目の当たりにして、一瞬呆けながらも、その危機的状況を悟った。

 が、次の瞬間、彼女の艶姿が目に入り、理性を一気に吹っ飛ばした。

 そう、ココアは必死で気づかなかったが、くすぐられ悶える間に彼女の作業衣は大きくはだけ、その下の下着までもが淫らにずれていた。

 薄汚れた作業衣から覗く白い乙女の肌と下着。若く、煩悩フルパワーの二人が、その光景に正常でいられるわけもなかった。

「ダ・サイダー!」

「ラムネス!」

 二人は真剣な眼差しで腕を組み、アイコンタクトで全てを理解し合う。

「「コッコアちゃ〜ん、今、助けに行くよ〜ん!」」

 二人はいきなりにやけた顔になったかと思うと、同時にジャンプした。しかも、その場に自分達の服を残して・・・・

 通称、ルパンジャンプと呼ばれるそれは、速急なベット・インに用いられる高等技術だった。まだ二十歳にもなっていない二人がこのような技を既に会得しているとは・・・・恐るべし。しかもダ・サイダーに至っては、その行程中に今後の邪魔を避けるべく、常に自分の両肩に装備されているアドバイザーロボ“ヘビメタコ”の出入り口をガムテープで封印までしていた。

「きゃあああああははははははははは!」

 ココアが現在進行中の危機と、新たに加わろうとしている危機に対し、それをまとめた悲鳴を上げる。

「「今いっくよ〜ん」」

 下着一枚となった二人は、見事な放物線を描きながら正確にココアへと迫った。

 だが、ココアの悲鳴から、新たに加わった対象を“敵”として認知したのか、機械としての義務感か、あるいは独占欲か、マシンは素早く「手」を繰り出し、二人をキャッチしたかと思うと、別の「手」で有無を言わさず高速ビンタを連続的に放った。

 “マッハビンタ”と呼ぶにふさわしい攻撃を受け、二人は大きく顔を腫らせた。さらに、マシンは二人を床に向けて投げつけると、床に衝突寸前、アッパーカットですくい上げ、そして今後は天井にぶち当たる前に容赦なく横殴りして壁に叩きつける。これまた“フリーザ様アッタク”と呼ばれる高等な攻撃であった。

 さすがはココアが作った事はあり、自己防衛システムは完璧であった。

「「うっきゃ〜!!」」

 情けない悲鳴を上げて壁に激突し、貫通する二人。

「あんた達、何やってるのよ?」

 貫通してぶち当たった廊下の壁で、ゴミのように横たわっている二人にレスカが声をかけた。ココアに連絡を受け、早速、物を見せてもらおうとやって来たのである。その後ろにはミルクの姿もあった。こちらは、野次馬である。

「あ、あっ、あ〜!だ、誰か〜〜助けてください〜」

 二人が回復して答えるよりも先に、壁の向こうからココアの悲鳴が聞こえた。

「?」

 何事かと、工房内へと足を踏み入れるレスカとミルク。その後に、体を引きずりながらもラムネスとダ・サイダーが続く。どんなに痛めつけられてもスケベ心は健在と言ったところか・・・・・・

「お姉さま、な、何やってるの!」

 この時点でのココアの艶姿はさらに過激度を増していた。作業着は半分近くが脱げた状態となり、あらわになった肌は赤く上気し、激しく悶えたためかブラもずれてしまい、右の胸が露出していた。

「プ、プロ、プログラムを間違えてしまいました・・・あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「よりにもよって、なんて間違いをするのよ」

 本来の依頼者であるカフェオレは、これが我が身に関わっていたかもしれないと思うと身震いした。

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